文章を綺麗に見せるとか考えてません。
そんな第2話後半です。例によって例の如く…(以下略)
※今回は2回に分けるには少々足りないので、少し長いかもしれませんが1回でまとめさせてもらいました。
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☆第1話 前編−??後編−??
☆第2話 前編−??
★白き覇王と漆黒の暴君
第2話 覇王は暴君の前に溺れる(前編)
1.道程
いつもはそうと感じない廊下も、今日ばかりは酷く長く感じていた。
走っても走っても辿り着かない。息が荒くなっていく。
ようやく生徒会室が近づいてきた。速度を上げ――だが、それ以上足が進むことは無かった。
どくん、と。心臓が跳ね上がる。意識は前にあり、進めと願うのに足は言う事を聞いてくれなかった。
――膨大な力が流れてくる。吹き飛ばされそうだ。
ど、と冷や汗が噴出す。しかしそれでも前へ進むしかなかった。この状況を止めれるのは多分、自分しか居ない、そう思っている。
「進め、俺っ…!」
意識を集中させると、足が動いた。再び駆け出す。
扉の前に辿り着き、そこが生徒会室である事を確認する。
深呼吸一つ。手を眼前に突き出すと、思い切りドアノブを回した。
「っ…!」
流れてきたものとは桁違いの力の波がやって来る。その先にあるもの――
「塩見! 一之宮!」
倒れているクラスメイトの姿をそこに見た。
2.交渉
ぐったりとした二人は動かなかった。完全に気絶しているようだった。
そこから視線を上げて、嵯峨原と視線がかち合う。耳に届く笑い声は、刃根崎の怒りのボルテージを上げるには十分すぎた。
「何を、した」
声音が震えていた。しかし彼は答えない。
「何をしたと…聞いているっ!」
彼の口から答えを聞くよりも早く、刃根崎は木刀の布を外し彼を打ち据えるべく駆け出していた。
嵯峨原は無防備であり、刃根崎が放った剣撃は間違いなく彼に当たったはずであった。
――しかし。
その一撃が彼に決まる事は無かった。やすやすと、あまりにもやすやすと止められていた。
木刀が、彼の手によって掴まれている。力を込めてもびくともしない。
「いいね。実に良い――やはり予想通りと言う事か。刃根崎恭介、君は彼等を助けたいんだね」
「当たり前だろう。塩見も一之宮も、俺のクラスメイトだ。さあ…返してもらおうか」
視線を逸らさず、睨み付ける。一般生徒ならば怖気づきそうなその視線も、しかし嵯峨原は平然と受け止めた。 そしてあっさりと、
「ああ、いいよ。でも、条件がある」
拍子抜けしそうになったが、最後に付け加えられた言葉に、表情が歪む。
条件は何だと問いかけるより早く、嵯峨原はこう切り出してきた。
「君のその力を、無に帰したい。…私に献上してはくれないだろうか」
「断る」
絶対に出来ない相談だった。この力が、白き龍の力が無くなってしまえば自分は只の人に成り下がる。
もう、只の人に戻るのは御免だった。
刃根崎の即答に、予想通りと言った風に頷いた後、嵯峨原は瞳を細める。
「そうか…では、君の力を奪うだけで良しとしておくか。…さて」
掴んでいた木刀をゆっくりと離すと、刃根崎の腕が力なくぱったりと落ちた。そんな光景を一瞥して、嵯峨原が、倒れている二人の傍にしゃがみ込み、そっとその髪を撫でる。
「彼等を泣かせたら、どうなるだろうね」
心臓を、鷲づかみにされた気がした。二人が泣く場面を想像して鳥肌が立った。
駄目だ、駄目だ。それだけは駄目だ。泣かせては駄目だ。涙が頬を伝っては駄目だ。
ぱたりと力なく落ちていた腕に、木刀を握り締めるその手に、再び力がこもる。引き剥がす為に、手を伸ばした。
「駄目だ。止めろ――そんな事をしたら、俺の力が――…」
「はは。そりゃあ困るだろうね。…知っているよ、刃根崎恭介」
意味深な笑顔で告げられ、届くはずだった手は力なく空を切った。
知っているよ、と嵯峨原はもう一度繰り返す。
同じような存在を飼っている者同士、その理由すら同じだと言うのか。だから知っていると言うのか、それとも――
嵯峨原がゆっくりとその言葉の続きを紡ぎ出した。
「彼等が泣いたら…悲しみの涙を流したら、君が秘めたる能力は」
わざとそこで区切り、そして、
「消える」
一段と笑顔が深くなった。刃根崎は、何も言い返せずに只唇を噛む。
「…だから、泣かせたくないのだろう。誰もを守ろうと思っているのだろう?」
反論など、出来ようもなかった。それは間違いなく理由の一つだった。
それが図星である事を見抜いた嵯峨原は、肩をすくめ、溜息を落とした。立ち上がり、改めて刃根崎に向き直ると、彼は何故か悲しそうな表情を見せた。それはほんの一瞬の事で、見落としてしまいそうなものだったがしかし、刃根崎は確かにその表情を視界に映していた。
「刃根崎恭介。多分、お前は本来ならばそんな人間じゃないだろう。欲望の為にその木刀を振るう。それが、お前だ」
3.欲する力
血の海が足元に広がっている。何で自分は立てているのだろう、それが不思議に思えてくるくらいの量だった。 肩で息をする。ぼんやりと視界はかすみ、眼前の敵の像をリアルに自分の視界に捕らえる事は出来なくなっていた。
敵の足元に、女性が居た。既に息が無い事は分かっていた。
――無力だ、あまりにも。自分は、最愛の人すら守れない。
目の前の敵は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきていた。何の為かなど、分かりきった話だった。
死ぬのかな、と頭の中でぼんやりと考える。死んでもいいかな、と頭の中でぼんやりと考える。
こんな弱い人間なんてどうせ、生きる価値はないだろうよ。
そう思うと、体の力が一気に抜けた。地面に突き立てていた木刀に完全に身を預ける形になってしまい、呼吸も急に荒くなってきた。
畜生、と毒づく気力も無い。
眼前にまで敵が近づく。視線を合わせる――その時の彼の顔を、今の刃根崎はぼんやりとしか覚えていない。
まるで人じゃないような気さえした。その絶大なる力。
ゆっくりと手を伸ばされ、そして――
潰れる音が、死ぬ音が。
聞こえて――は、来なかった。
視界に映るは敵ではなく、白く長く渦巻く、あまりにも綺麗で見惚れるような、純白の。
『力が、欲しいか』
龍が、ゆっくりと問うたので頷いた。声を吐き出して、叫んだ。
拳を握り締め、叫んだ。
「欲しい。強い力が、欲しい…!」
誰も泣かせないで済む力。誰もが自由に生きる事を手助けする力。
もう血を流さなくて済む力が――欲しいんだ。
一鳴き、した龍は、ならばと頷く。
約束しろ、と低く声が耳に届いた。
『ならば約束しろ。もう誰も泣かせないと。誰にも悲しみの涙を流させないと。それが、契約条件だ。破れば力は無に帰る』
4.一割の想い
「確かに、そうだな」
思い出がざざざと駆け巡り、やはり反論のしようなど無くて、刃根崎はその問いに対して肯定した。
「俺は、欲望の為に生きてきた。今も、これからもそれは変わらないかもしれないねい。でも」
ひひひ、と喉の奥から笑い声を漏らして刃根崎は笑った。誰も見たことのないような笑みだった。
恐らくこの場所に彼を良く知る誰かが居たならば、間違いなく目を剥く事だろう。
「でも俺は今は、人のために力を使いたいって思うねい…一割くらいは」
今この瞬間自分がこの場所に居るのは、彼等を助けたいと思ったからだ。黒き龍がその身を滅ぼそうとしているなら、自分がそれを食い止めねばならないと思ったからだ。
「ってわけで、嵯峨原生徒会長」
木刀を片手で握り眼前に構え、刃根崎は左足を一歩下げ、全身に力を込めた。
屈しない。そう思った。俺は、友も、この力も失わない。
瞳を閉じて、もう一度開いて、己の中に居る彼に囁きかける。
大丈夫だろう。イけるだろう?
「お望みどおり、白き龍をもう一度、お見せいたしますかねい」
ああ。だよなあ。大丈夫だ、俺も。
――勝つんだ、友の為に、自分の為に。
「…愚者、埋葬」
龍が、一つ――吼えた。
第2話、完。以下、第3話に続く。
次回。刃根崎と嵯峨原、激闘…?
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第2話 覇王は暴君の前に溺れる(前編)−?
3.エール
ピンポンパンポン、と呼び出しを知らせるチャイムが鳴り、誰もがその後に続くであろう声を待った。
『生徒の呼び出しをします。1年3組の塩見健人君、一之宮和希君。至急生徒会室まで来て下さい。繰り返します――』
その言葉に、誰もが驚いた。昼休みはもう終わる。なのに今から生徒会室に来いなどと、冗談にも程がある。
行くのだろうか、と刃根崎が2人に視線を移すと、彼等は席を立ち、出口に向かっていた。
必然的に授業は遅れる事になるが仕方が無い、と肩をすくめ、2人はやがて教室から姿を消した。
去り行く背中を呼び止めようとも思っていたが、刃根崎はそれをしなかった。呼び止めてどうするのか、もしかしたら何もないのかもしれない。
嫌な予感を振り払い、何事も無かったかのように授業の用意を始めていると、刃根崎の机の上に、誰かの手が置かれた。さら、とした黒髪がその上に垂れている。
刃根崎と視線が合った少女は、臆する事無く、更にじっと彼を見つめてきた。その視線に、刃根崎のほうがたじろいだ。まるで、全てを見透かされているかのように錯覚してしまう。
動揺を殺し、低く呻く。
「余計なお世話かもしれないけど、彼等を追ってあげてほしいの」
黒髪の女――女生徒はそう切り出した。
何で、と問いかけようと思ったら、それは間髪入れず紡がれた言葉で遮られる。
「…言っても、信じてくれないかもしれないけど、私見たの。この前中庭で…生徒会長が、その…黒い龍を連れているのを…錯覚なんかじゃないわ。あれは確かに龍だったの。その時の生徒会長はまるで別人みたいで、普段の温厚な感じとは全然違って…何だか良く分からないけど、酷く嫌な予感がする。だって、こんな時間に至急呼び出すなんて、絶対おかしいもの。あの光景を見ていなければ、何とも思わなかったかもしれないけど、でも」
まくしたてる女生徒は、いつしか教室中の注目を浴びていた。聞かされている刃根崎本人も、半ば呆然とその言葉を聞いていた。
「あの時の彼は、まるで人間に見えなかったから――」
区切られた後、間を置いての言葉は、刃根崎の心に酷い衝撃を与えた。
がた、と席を立つ。まだ話途中であろう女生徒は、驚いて言葉を切った。困惑している彼女に向かって頷き一つ。
「そうか…あんたの話で分かった。奴は恐らく人間であり人間ではない」
「え? え?」
言っている意味が分からず、思わず周囲を見回してしまう彼女だったが、見回したところで何かが解決するはずは無かった。案の定、誰もがその意味を理解してはいなかった。
そんな様子は気にも留めず、刃根崎は机の横に立てかけておいた木刀を手に取った。
――分かった。彼が自分の白き龍を見ても動じなかった理由が。彼も、自分と同じような物を持っている、だから動じなかった。至極単純な話だ。
「黒き、龍。昔聞いた記憶があるぜい。真実を、確かめてくる。言ってくれて、有難う」
言ってくれた女生徒の頭を優しく叩くと、刃根崎は昼休み終了間際の教室から飛び出していった。
「あ、あのっ…刃根崎君なら、きっと頑張れるはずだから! 頑張って…!」
背中越しに、そんなエールを受けながら。
4.善と悪は紙一重
「失礼しまーす」
「失礼します」
刃根崎が廊下を駆け抜けている頃、塩見と一之宮の2人は既に生徒会室の扉を開いていた。
室内は明るく照らされており、少し眩しくも感じる。
2人の視線の先に、目的の人物は居た。机に頬杖を付き、ようこそと彼は歓迎の言葉を吐いた。
「あの、一体何の用なんですかね」
とっとと戻りたい一之宮は、愛想笑いを浮かべることもなく、単刀直入に言い放った。
実のところ、塩見は生徒会長を好んでいたが、一之宮は彼を好んではいなかった。嫌いでもないが、何となく好きにはなれないでいる。
こびへつらおうとも、思わなかった。
一瞬にしてピリピリしたものに変化した空気に、塩見が怯えるような目線で一之宮を見た。
生徒会長は肩をすくめると、ようやくその椅子から重い腰を上げ、こちらへと近づいてくる。
本来ならば、塩見と一之宮が近づくべきであるが、一之宮がその足を踏み出さなかった為、塩見もまた動く事が出来なかった。
2人の元へ近づいてきた生徒会長は、何も言わなかった。
只笑顔を向けていただけで――ぞくり、と背筋に悪寒が走った。足がすくむ。
動けなくなった彼らに、手が伸びてくる。瞼を閉じる事も出来ず、やがてそれは両方の額に触れ――
「…っ」
瞬間、がくり、と体が崩れ落ちた。何故か頭もぼんやりとしてくる。
衝撃を感じたのはほんの一瞬。気がつけば、もう体に力も入らない。
一体何をしやがった…! そう言ったつもりだったが、それはもはや声とはなっておらず、只空気が漏れているにすぎなかった。
最後の気力を振り絞り、彼の顔を仰ぎ見た。
やはり、彼は笑っていた。
「君たちに餌になってもらおうと思ってさ。それが用件だよ。刃根崎を、葬る…ね」
最後の言葉を聴いた瞬間、一之宮は奥歯をかみ締めた。一体誰を葬るって?
駄目だ。自分たちの所為で、彼が死ぬのは絶対にあってはならない。
出来る事ならここへ来ないで欲しい。そう願う。
だが無意識に、彼らは読んでしまっていた。
声が出ない代わりに、互いが互いに同じ人物を心の中で呼んでいた。
覇王、刃根崎。どうか、ここに――
★以下、第2話後編に続く。
只でさえ、明るくはない話が、どんどんと暗くなっております。
後半も、そして第3話も真っ暗です。光はあるのでしょうか?
それは私にも分からない。
今回は第2話と次回の第3話で、前後編形式を取っています。
で、今回は前編となる第2話の、前半部分をお送りします。(ややこしいな…)
今回も、例によって例の如く(以下略)
そんでもって、ちょい短めです。すいません。
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第二話 覇王は暴君の前に溺れる(前編)
1.不機嫌な覇王
塩見と一之宮は怯えていた。
昼休み終了間際に帰ってきた刃根崎は、誰もが怯えるほどに不機嫌だった。
口を開こうとせず、自分の席で彼は今、物思いにふけっている。
――何者だ、あの男は。
只の生徒会長だと思いたいが、それは間違いなく有り得ない。
あの男は、あの白き龍を見ても何も動じた様子を見せなかったのだ。あまりにも平静すぎる態度で、しかもまた見たいなどと抜かしてきたのである。
あの余裕があまりにも癪に障る。あれは、まるで弱者を見るような目つきだった。
それに、まるで全てを知っているような素振りだった。一般人ならば、あれを見て驚かないわけが無いのだ。
何者だ。と胸中で呟く。考えを巡らせ辿り着いた結論は、あまり認めたくはない物だった。
こんな簡単に出会うわけが無い――そう思ってはいるが、他に考えようが無かった。もう一つの可能性は、あの男が見せた視線を思い出して、速攻で打ち消した。
叫んでしまいそうな衝動に駆られながら、乱暴に頭をかきむしる。我に返った後でふと、自分に突き刺さる視線に気づき、ようやく顔を上げた。
自分の手の届く範囲にまで来ていた塩見の腕をが、と掴み、刃根崎は低く、呟いた。
「…さっき、生徒会長に会ったんだ」
不機嫌の理由はそれなんだ、と瞳に込めて言ったつもりだったが、塩見はその秘められた第二のメッセージには気づかなかったようだ。
さして驚いた風もなく只、そうなんだと呟いた後、塩見は刃根崎にとって衝撃となる一言を言い放った。
「良い人だったでしょう」
耳を疑った。それは聞き間違いかとも思った。だが、目の前でもう一度その言葉を繰り返した塩見を見て、これは聞き間違いではないと悟った。
冗談ではない。瞳の奥にあんな不気味な光を宿している男が良い人間なわけはないのだ。
でも、とそこで思い直す。自分にとっての印象は最悪だが、あの男は、生徒会長は確か評判が良かった。
女子がきゃあきゃあと騒いでいる光景を、思い出した。あの時はどうでも良いと考えていたが、今思うと何となく胸糞悪い。
段々と機嫌が悪くなっている刃根崎の様子など知る由もなく、塩見は続けていく。
「僕も、生徒会長には結構助けられた事があるんだよ。喧嘩も結構強いみたいだしさー…」
その後も塩見にしては珍しくべらべらと喋り続けていたが、刃根崎はもはやその言葉の続きを聞いてはいなかった。
苛立ちはますます色濃くなっていくだけで、刃根崎は屈辱に唇をかみ締めていた。
一体あいつは何者なのか。もう一度、誰にともなく問いかけながら。
2.陰謀、動く
男は実に楽しそうな笑みを口元に貼り付けながら、これからの展開に夢を馳せていた。
思い出しているのは、先程の光景だった。
気絶した大勢の生徒の中に佇んでいた、1人の少年。
彼の事はよく知っていた。何せ、この高校内で最強と謳われる「覇王」である。知らない人間など存在しない。 彼が確かに見せていた、あの白き龍。勿論、その存在が何たるかも、男は知っていた。
まるで同胞に会えたかのような喜びを、彼は持っていた。
まさか、こんな場所で、こんなに早く会えるとは思っていなかった――と、彼の中の何かが言った。
そうだね。と男は微笑む。是非これは一戦交えるべきである、と。
そして、その力を奪いとり、あわよくば自分のものにする。強力な力は、2つも要らない、そう思っているからだ。しかも、あの力は今後自分の目的を果たすに置いては邪魔である以外に他ない。
どうやって消そうか、と男は思考をめぐらせた。しばしの後、頭に浮かんできたのはある人間の存在だった。
彼等を餌としよう。それは至極単純とも言えたが、効果的な方法とも言えた。
あの覇王が、大切に守るクラスメイトの中でも、彼らは恐らく一番大切に扱われている。
餌にして、傷つくのを見たら、彼はどんな表情をするだろう。考えるだけで、ぞくそくした。
そうと決まったら、直ちに行動に移してしまったほうが良い。男はそう考え、ある事を頼む為に教室の出口に向かって歩き出した。
向かう先は――
★以下、第2話(前編)−?に続く。
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第1話 覇王は不良を退ける(後編)−?
6.覇王、光臨。
ほぼ同時刻。刃根崎は一人の男と中庭で対峙していた。
耳に光るピアス。下品な笑みを口元に浮かべた、小菅兵太と言う男と一対一の格好で。
木刀を肩に担ぎながら、刃根崎は瞳を細め、小菅に負けるとも劣らない下品な笑みを浮かべていた。
「どうも、小菅先輩。糞素敵なラブレター、有難うございました」
嫌味たっぷりにそう言うと、小菅はこめかみに青筋を浮かべた。
「喜んでもらえたようで有り難い。今日は今までのお礼をさせてくれよ」
張り詰める空気。その時刃根崎は、自分に集中している視線がある事に気づいた。
笑みが深くなる。あの果たし状を貰った時に感じた予感は、確信に変わる。
草が、靴の裏で擦れる。一定の距離を保つと、刃根崎は肩に担ぎ上げていた木刀の布をすばやく外して、草の上に落とす。ひゅ、と木刀は次の瞬間に空を切り、そして小菅の鼻の先で止まった。
「ええ。喜んで受け取りますよ。十一人も御礼をしてくれるなんて、俺ってモテて困るねい」
「何…」
打たれると感じ身をすくめた小菅は、続けて放たれた言葉に驚愕した。
ばれている――しかも人数まで完全に合っている。
「気配もまともに隠せないような奴ばかりなんですねい。俺たちを取り囲むようにぐるっとって感じですか。俺に対してそんな事するなんていい度胸だ」
小菅は自分の額に冷や汗が伝うのを感じた。
塩見を助けた時に見せていた瞳とは、今は全然違う色をしている。
「さあ、始める事にしましょうや。後悔、すんじゃねぇよ」
今この場所に居るのはまさしく――覇王だった。
「ぐ…」
瞳に射抜かれ小菅は怯むが、しかし退く事はしなかった。
刃根崎でも、この人数を一気に相手にするのは難しいはずだと思ったからだ。
「い、幾らお前でも一人ではきついだろう…おい、やっちまえ!」
どもりながらも何とか声を荒げ、合図を出す。
十一人の生徒が一気に姿を現した。彼らは誰もが手に武器となるようなものを所持しており、小菅もまた、懐からバタフライナイフを取り出す。
卑怯だ、と言おうとしたが、常に木刀を所持している自分も相当に卑怯なわけであるから、言えるわけは無かった。
ざ、と周囲に視線をやる。小菅がナイフを振りかざしても、誰かがバットを振り上げても、しかし刃根崎は動じる事はなかった。
それどころかその場から動く事すらしない。足を踏ん張り、ゆっくりと瞳を閉じるだけだ。
「やられるのはてめぇらだよ。逝け」
彼らが襲い掛かる直前、ようやく木刀がゆっくりと振り抜かれる。
「――愚者、一掃」
刃根崎を中心にして、とてつもない爆風が吹き荒れ、そして。
吹き飛ばされかけながら、彼らは見るのだ。
白き、龍を。
7.覇王の前に影
決着が付くのに、一分とかからなかった。
すっかり伸びてしまった小菅たちを前にして、刃根崎は疲れたという風にぐぐ、と伸びをした。
「ちょっと、疲れたな。やりすぎたか…?」
下に落としていた布を拾い上げ、木刀に綺麗に巻きなおす。紐を口できゅ、と結ぶと、それを肩に担ぎ上げた。 久しぶりに、あの技を使った。一人一人対応をしてやっても良かったのかもしれないが、それをしていたら確実に今よりも酷く体力を消耗していたように思う。
腹の虫が鳴った。昼休み直後にすぐ教室を出たので、まだ昼食は取っていなかった。
「ああ、まあどうでもいいか。腹減った。戻ろ…」
踵を返し、自分の教室へ向かうべく歩を進める。一歩踏み出し、しかしそこで刃根崎の歩みは止まる事になる。 目の前に暗い影が落ちた。頭に疑問符を浮かべ、刃根崎は自分の目の前に突如出現したその人物を見るべく、視線を上げた。
黒髪の長髪を風になびかせながら、その男は刃根崎をじっと見据える。
何も言わずに見つめてくるその視線が気持ち悪くて、刃根崎は嫌悪感を露にした。
「――何だ、あんた」
「見事な、剣さばきだね。刃根崎恭介」
しかし男はその問いに答えず、ぱちぱちと手を打ち鳴らして笑う。それがまた、刃根崎の癪に障った。
見覚えはあった。目の前にいる男は自分と同じくらい、この高校では有名な存在であるからだ。
名前を思い出そうとしたが、全く思い出す事は出来なかった。まあいいか、と刃根崎は思い出すことを諦める。男は、更に刃根崎との距離を詰めてきた。
「しかし、ちょっとやりすぎかもね」
射抜かれた。その瞳を見た瞬間、刃根崎の背筋に悪寒が走った。木刀を構えるが、その紐を解く事も出来ない。 何だ、こいつは。刃根崎は歯軋りをする。
以前見かけた時は、こんな空気を纏ってなどいなかったはずだ。
どくん、と心臓が跳ね上がる。こいつは危険だと、本能が告げる。
動けないでいる刃根崎を前に、男はゆっくりと刃根崎の肩に手をかけ、そしてもう片方の手をゆっくりと移動させた。
「…っ、あ」
ぐら、と刃根崎の体が傾きかけた。倒れそうになった体は寸前で何とか木刀で支え、芝生の上に倒れる事は免れた。
何とか距離を取り、腹を押さえる。しびれが、残っていた。
「て、めぇ」
ナイフだとかそんなもので刺されたとか、拳を打ち込まれたとかそんな事はされていなかった。
只、手を触れられただけ。それなのに、刃根崎の体には酷い衝撃が走った。
荒く、息を吐き、睨み付けた。男は肩をすくめる。
「そんな瞳で見るなよ。ちょっとしたお仕置きだよ、これは。まあ、私と君は…いずれ、戦う事になるだろうから楽しみにしててくれよ。すぐに、復讐の機会は訪れる。君の、私に対する、ね」
それ以上何か仕掛けてくるかと思ったが、男はもう何かをしてくる事もなく、踵を返すだけだった。
その背中を見つめている刃根崎に、降ってくる言葉があった。
「刃根崎恭介。君が体の中に飼っているものを、また見れる事を期待している」
男は消えた。
覇王、刃根崎恭介は、この時酷い敗北感を覚えた。
実力未知数の覇王の前に、現れたこれもまた、実力未知数の男。
彼の姿が消えた後で、刃根崎はその場に座り込み、毒づく。
「ふ、ざけんな。糞生徒会長がよ…!」
刃根崎はその場から動く事が出来ず、しばらく怒りと悔しさに打ち震えていた。
――風の音が、酷く耳障りだった。
★第1話、完。以下、第2話−?に続く。
と、いうわけで第1話は終了です。なんていうか、…な出来で申し訳ない。
漢数字とかごちゃ混ぜですが、見ない振りで…
おまけで次回予告を書いてみました。これもまた、反転でご覧下さい。
★第2話予告(あくまでも現段階のイメージなので、全然違うじゃねぇか!と言われても困ります)
男の前に、刃根崎はがくり、とひざを付いた。
目の前の男は口元に笑みを浮かべて笑っていた。
これが力の差、なのだろうか。
しかし負けるわけにはいかなかった。
刃根崎は立ち上がり、改めて木刀を握り締める。
あの白き龍をもう一度、お前に見せてやろう。
次回、第2話「覇王は暴君に溺れる」近日公開。
3月アップは困難かもと言っていましたが、根性で1話を完結させたので公開です。
と言っても、展開的には全く完結しておりませんので…すいません。
統一性をもたせるために、第1話のサブタイトルをしなっと変えました。
気がついたら、ぶっ飛んだデータとはほぼ別物(もはや展開すら違う)だった…
では、以下後編になります。
またしても長いので(前編より結構)2回に分けます。
ちなみに前編→??
★白き覇王と漆黒の暴君
第1話 覇王は不良を退ける(後編)−?
4.果たし状
「何だ、これは」
翌日。学校の玄関で自分の下駄箱をばかり、と開けた刃根崎は中に入っているものをつまみ出し、訝しげな表情を見せた。
果たし状。それには汚い字でそう書いてあった。中には日時と場所が指定してある。ちなみに日時は今日の昼休み。場所は中庭であるようだ。
くだらん、と呟き、どうしてやるかと思案していると、
「おや。随分と素敵なラブレターを貰ったんだね、刃根崎」
「…一之宮かい」
自分の少し上のほうから、声が降ってきた。振り返らずにその声の人物の名前を呼ぶと、その人物は弾んだような声を出し、刃根崎の首に馴れ馴れしくも腕を回してきた。黒髪が風に揺れる。
一之宮和希。彼もまた刃根崎のクラスメイトであった。
「あったりー。おはよう、刃根崎」
その腕を振り払おうかとも考えたが、何か言われるのも面倒なのでそのままにしておく。
一之宮はそれをいい事に、更に馴れ馴れしく問いかけてくる。
「ねえねえ。そんでどうするのさ、それ」
「どうするって、どういう事だい」
分かってはいたが念のために問いかけると、一之宮は嫌だなぁと言って声を上げて笑った。
そんなの分かっているくせに。細められた瞳はそう物語っていた。
「行くのか、行かないのかって事。ね、どうすんのさ」
「…くだらんとは思うし、別に行きたくも無いが」
一瞬の逡巡の後、刃根崎はぽつりとそう吐きだす。
何故だか、この果たし状からは卑怯者の匂いがする。
一対一の正当な勝負――そんなものではないのではないだろうか。
それを頭の端で考えながらも、刃根崎はしょうがないと息を吐き出す。
「そろそろ、飽きてきていたところだ。奴らには。…少し、痛い目を見てもらわないと、いけないかねい」
だって、そうじゃないと奴らはいつまでも繰り返す。自分の手を、煩わせる。
「と、いうわけで一之宮。俺は昼休みは不在だから、誰かに何かあっても対処出来ないと思うのでよろしく」
ひらひらと手を振り踵を返していく刃根崎だったが、しかし一之宮の制止によってその歩みは止まる。
「なあ、刃根崎」
一之宮の方を振り向く事はしない。黙って、彼の言葉の続きを待った。
「…どうして刃根崎は、俺たちを助けてくれるわけ? 他のクラスの奴なんか平気で見捨てるくせにさ」
「決まっているだろう。そんなの」
問いに対して、刃根崎は間を置くことなく答える。
おもむろに手に持っていた木刀を肩へ担ぐと、そこでようやく肩越しに振り向いてやる。
「お前たちクラスメートは、俺の仲間だからねい。他の奴らは顔見知り程度でしかない。…俺は、顔見知りまで助けるほどいい奴じゃないんだ」
刃根崎を見る、一之宮の瞳が揺らいでいた。その表情があまりにも不安そうだったので、刃根崎は声を若干柔らげてやる。
「そんな顔するない、一之宮。お前は…お前たちは」
間を空けて、きっぱりと言い切る。
「何があっても俺が守るからね」
それと同時に浮かんだ笑顔に、一之宮の顔が何故か一気に赤くなったのを、刃根崎は確かに見た。
その理由なんて、当然分かるわけはない。
「じゃあ、お前も遅れないように教室来いよな」
一之宮から視線を外すと、そう言い残して刃根崎は踵を返した。
あの表情が、あまりにも鮮明に脳裏に焼きついていた。
5.刃根崎、不在にて
時間はあっという間に訪れる。
授業終了のチャイムが鳴り、担当の教師が教室を出た直後に刃根崎もまた姿を消した。
塩見が刃根崎の席へと視線をやった時には、もう遅かった。
「あ、あれ? 刃根崎…?」
一体どこに行ったのかと首を傾げる。刃根崎が昼休みに教室を空ける事は殆ど無いはずなのに、どうしたのだろうか。
「おやー? どうしたの塩見。もしかして刃根崎探してんの」
まあいいか、と昼食を食べる準備を始めると、頭上から声が降ってきて、塩見はその声の方に視線を向けた。 数人の女生徒と共に、一之宮がそこに居た。彼は結構な頻度で女生徒と共に居るので、塩見は別段何も思いはしなかった。
「あ、一之宮。うん。そうなんだけど」
「刃根崎ならさ、多分しばらく帰ってこないと思うよ。今朝、素敵なラブレターを貰ったから」
理由を聞く前に一之宮が先に教えてくれたが、塩見は我が耳を疑った。
ラブレター? あの刃根崎にそんな物が――
「え、本当に…?」
思わず聞き返す。驚いているのは塩見だけではない、一之宮の周りに居る女生徒たちも同じだった。
覇王としてこの学校で馳せてしまっている刃根崎。確かに顔立ちは悪くはないものの、入学式後のあの交流会の様子を見てしまっている者はまず、好意を抱くなどしないだろうと思っていた。
誰だというのか、そんな物好きは。
思わず顔が引きつる塩見に、ひそひそと噂話を始める女生徒たち。
それを見た一之宮は、彼らが間違いなく誤解している事に感づき、慌てて訂正を入れた。
「あのさ、俺の言っているラブレターってのは本当のやつの事じゃなくて…その、果たし状の事なんだけどさ」 ぴた、と動きが止まった。
その後、塩見たちが一斉に安堵の息を吐いた。
「何だー。そんな変な言い方しなくても、普通に言ってくれればいいじゃん」
女生徒の内の一人が、けたけたと笑い声を上げながら一之宮の背中をばし、と叩いた。その力が思ったよりも強く、一之宮は思わず前に倒れそうになる。げほ、と咳き込んだ後、素直に謝る。
「あはは。ごめん」
塩見が、ふと呟いた。
「相手は誰だか知らないけど、大丈夫かな。刃根崎。いや、大丈夫だとは思うけど…彼の強さは尋常じゃあないし」
窓越しに外を見つめる。そこからは中庭が見えた。刃根崎の姿を見る事は出来なかったが、きっと彼はもうそこに居るのだろう。
「大丈夫だろー。覇王は、負けないのさ」
一之宮と共に中庭を見つめながら、塩見は頷いた。
――きっと大丈夫だと、信じている。
★以下、後編−?に続く。
★バックナンバー 前編−1
第1話 覇王は不良を退ける(前編)−1
2.覇王が覇王と呼ばれたその日
刃根崎が、覇王と呼ばれるようになったきっかけになったあの日は、確か随分と前だったように思う。
去年の事だ。この高校では、入学式の後に交流会なるものが存在する。その会の最中、何が気に食わなかったのか突然騒ぎ始めた上級生たちを、あろうことか刃根崎は挑発し、見事に彼らの怒りを買った。
激昂して襲い掛かってきた彼ら――確か人数は5、6、人だったように思う――を、教師の制止も聞かず、刃根崎は先輩だからと戸惑う様子も見せずに、彼らに向かってゆっくりと歩を進めた。右手には、布に包まれた長い棒のようなものを持っている。形状からして恐らくは木刀に間違いない。
勝負は、一瞬でついた。生徒たちが悲鳴を上げて直後、目の前には刃根崎を襲ってきた上級生たちの無残な姿があった。
一体何があったのか、それを上手く把握する事が出来ないくらい、あっという間の出来事だったのだ。
今回は第1話の前編です。長いので2回に分けます。
★白き覇王と漆黒の暴君
第一話 覇王は不良を退ける(前編)−1
1.制裁
どこからか喧騒が聞こえ、刃根崎恭介は思わず眉をひそめた。
彷徨わせたその視線の先――中庭には数人の生徒の姿が見える。その中に見知った顔を見つけ、刃根崎はその場所に向かってゆっくりと歩を進めた。
遠巻きからでも彼等が何をしているのかを理解する事は出来たが、実際に近くで見るとそれは酷く醜い光景だった。そして彼がその光景を目にするのは、もはや両手で数え切れないくらいの回数となっていた。
「ほら、とっととその財布出しやがれってんだよ! この糞野郎が!」
怒号が耳を劈いた。その不良の餌食となっている生徒は、肩を跳ね上げそしてそのまま顔を俯かせた。
随分と近くに来ても、彼等が刃根崎の気配に気づく事はない。自分の目の前にある巨大な背中に向かって、刃根崎は遠慮なく足を振り上げた。



























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