伝令にございます。
無人が光扇京にいる聖導師の下へ駆け寄り、声を潜めて知らせる。ご苦労であった、と無人を下がらせれば、吉報であろうなと帝から声がかかる。
はい。チャグム皇太子殿下は悪しき魔物を退け、水の精霊の誕生にご尽力あそばし、ただいま帰宮の途にあるとの事にございます。
無人からの知らせを、帝と二ノ妃に伝えた聖導師。涙を流して帝を見やるニノ妃。帝は、瞳を閉じたまま、大儀であったと呟く。
緘口令を解き、宮を上げての式典の準備に入ると聖導師。天の加護を受け、建国の道を開いた世祖トルガルの生まれ変わりとして、内外に伝え聞かせよ。帝の言葉を聖導師は了承する。
卵に導かれ、1人サーナンへと向かうチャグム。
水源が近いんだ……足元の岩の下を流れる水を見てそう感じたチャグムは、自分の横を通り過ぎていく魚を見て、思わず足を止める。過ぎていく魚の群れに、自分がナユグとサグの狭間にいる事を知る。
やがて水中にいるような感覚がチャグムを襲い、やがてそこは完全に水の中となる。
バルサ、この花が俺達の最後の希望だ。これでチャグムを救えるか。
ラルンガとの戦いで足に傷を負ったタンダは、シグ・サルアの入った自分の鞄をバルサに託す。
分かった、やってみるよ。必ずチャグムを守ってみせる。と鞄の紐を握り締めてバルサ。
モンはタンダの前にかがみこみ、薬草師。その花、我等にも効果はあるか。と問う。俺が少しまじないをかければ、恐らく誰でもナユグを覗けるようになると答えるタンダ。
その花を我等にも授けてくれ、とジン。例えこの身が引き裂かれようとも、おぬしの医師を引き継ぐ、頼む。と言われれば、タンダは感謝の言葉を述べた後、俺からもそう頼むつもりだった。皆でチャグムを守ってくれ、と続ける。
遂にラルンガと対峙したバルサ達。
突然駆け出したチャグムを追って行く狩人達を見て、バルサもそれに続こうとして、声に呼び止められる。自分も行くと言ったタンダは、バルサに来なと言われて、森の中へと駆け出す。
軍勢は混乱していた。落ち着け、とシュガは軍勢に言い聞かせ、各班毎に陣形を整えよと命令する。1班と2班は私と共に皇子を追う……そこまで言うと、待たんかいと声がかかった。声の主はトロガイ。
慌てるんじゃないよ、ここが宴の地だとしたら、あの小僧はいずれここに戻ってくる。卵が孵るのは明日の明け方のはずだからね。
追跡はあいつらに任せておきな。今からでは到底追いつけない、むしろ我々がやるべき事は、互いの知識共有。違うか?
トロガイに問われ、そうですね、そうかもしれないと答えるシュガ。シュガは、軍勢に池の周辺にかがり火を焚けと命令する。皇子が戻った時に、再びラルンガの襲撃を許すわけにはいかない。急ぎ支度をするのだ、その言葉に準備を進めていく軍勢。
冬が終わり、春がやって来る。
ロバに乗って戻ってきたトロガイは、風景を見渡し、今年は雪が少なかったねと呟く。
そして太陽のまぶしい空を見上げて、そうか。ニュンガロイムがいったか……。
すまん、出立までに全てを読み解く事が出来なかった、と謝るガカイ。
しかしそれに対してシュガは、皇子を卵食いから守る手立てが見つけられたでも十分だと言う。
そうだな、いかなナユグの魔物とて、弱点をつけば倒せるだろう、とガカイ。何か新しい事が分かれば馬を走らせよう……行きたまえ。
出立の前、シュガはニノ妃の下に寄る。この命に代えても、チャグム皇子をお救いしますと言うシュガだったが、ニノ妃から貴方も生きて帰らねばならないと言われる。貴方は、この国にとって、既になくてはならない御仁。
その言葉に深々と礼をして、行ってまいりますとシュガ。
そして、シュガに狩人。ヨゴの軍勢が宴の地へと向かい始める。
雪降る中、残りの王の槍全てと対峙する事になったジグロ。
彼等はジグロの言葉には全く耳を貸さずに襲い掛かってくる。
王の槍と対峙しつつ、走り抜けていけば、当然のように、彼等は追いかけて来て攻撃を仕掛けてくる。
1人、また1人と片付けていくジグロ。そして最後とおぼしき1人と対峙した時、どこからか槍が飛んできて、それはジグロの肩に突き刺さる。槍を飛ばしてきた男は、ジグロにやられはしたものの、まだ動けるようだった。
刺さった槍を抜いたジグロを見て、とうとう我慢できなくなったバルサは、ジグロを助けようと飛び出していく。だがそれを、ジグロの声が制する。来るな、と。
そしてジグロは、対峙していた王の槍を片付け、先程致命傷を与え損ねた男と対峙する。
自分の槍が、倒した男の下敷きになってしまっているために、素手で対応したジグロ。しかしその所為で、腕を痛めてしまう。
男の次なる攻撃に、とっさに反対の手で石を掴んで投げ、対応するジグロ。そして。ゆっくりと、倒した男の下敷きになっている槍を引き抜くと、悶えている男に突き立てた。
ジグロの事を語るには、まず私の幼い頃の事から、話さなきゃならないね。
狩穴の中。バルサにとってかけがえない存在であるジグロの事を聞きたいと言い出したチャグムに、バルサは語りだす。
カンバルはヨゴとは違って、豊かな実りをもたらす田畑はない。あるのは険しい山と、岩だらけの牧草地帯。
人々はやせた土地を耕し、僅かばかりの穀類や芋を作り、カンバル山羊を放牧して暮らしていた。
私は、そんなところで生まれ育ったのだ……。
トウミ村にやって来た狩人達。
モンがどこかにいるであろうバルサに対して声を張り上げれば、何をぎゃあぎゃあ喚いてるんだい、とトロガイとタンダが登場する。
トロガイをじっと見つめるシュガ。タンダは、シュガが前に出会った事のある人物である事に気づく。
階段を下りて、シュガと狩人達の元に近づくトロガイ。お前星詠み博士か、と問えば、シュガは肯定した後、もっと早くに1度お会いしたかったと言う。
ふん。星詠みとも思えん発言だね、と言った後、ニノ妃に手紙を書かせたのがシュガである事を知ったトロガイは、ちょっとはまともな話が出来そうだと笑む。
若造の星詠み博士よ。是非お前の考えを聞きたい。
トロガイは語りだす。どうやら、ニュンガロチャガとなったあの皇子様は、来年の春の等しき日になると、渡り鳥が渡りを始めるように宴の地なる場所に旅立ってしまうらしい。しかもその時、ナユグからは卵食いもやって来る事が分かっている。
丁度産卵のために川を上ってきたトグリャをヒグマが食いに来るようにな。
そして、我等ヤクーの言い伝えによれば、その時精霊の守り人は卵食いによって殺される運命にあるらしい。
トウミ村の少女であるニムカから、卵食いラルンガの存在を聞いてしまったチャグム。
夜、布団に横になって落ち着いた様子を見届けたバルサは、空に浮かぶつきを眺めて、これからどうするか。それを考えて溜息を吐き出した。
第2皇子がニュンガロチャガになっている事には、トウミ村の長老も驚きは隠せない。
何なら春まで村でお守りしても構わないとの申し出に、しかしトロガイはそうもいかない事情があるとその申し出を受け入れない。
ニムカは、大変な事を言ってしまったと自分を責めるが、タンダは君は悪くないとニムカを慰める。あれは俺達の不注意だから、と。
そこへ戻ってきたバルサ。チャグムが眠った事を告げたバルサは、ニムカにさっきの話の続きを聞かせてくれるように頼む。
しかし口を開こうとしないニムカに、確か卵食いは見えないし触れないと言ったね、と切り出す。それはどういう事なのか、と。しかしニムカはそう教わっただけであり分からない。ただ、ニュンガロチャガを引き裂いた時には、その姿ははっきり見えた。大きな地面が、何本も地面から伸びてきた……。
トーヤのお陰で難を逃れる事の出来たバルサは、何とかタンダ、チャグム、そしてトロガイ師と合流するが、チャグムの表情はあまりにも暗い。
トウミ村へ直行しようとしたバルサ達に、チャグムは自分は1度宮に戻って、死んだ兄上の事を聞きたいと話すが、宮に帰す事は出来ないとバルサに却下されてしまった。
訳は後で話す、それに今は追っ手を撒く事が先だと言うと、明らかに納得出来ないと言った表情を見せるチャグム。
狩人達に、シュガは自分が出会った今のチャグムの事を話す。
すっかり変わってしまっていて、一見では街の子供達と区別がつかない。しかし以前と変わらず、はつらつとした、健やかな顔をしていた……。
そう話していたところへ舞い戻ったジン。扇の下をくまなく探すも、チャグムの姿はなかったと言う。
自分の不甲斐なさをシュガは悔いるが、モンは無事が確認できただけでも、とシュガを気遣う。
大切なのは、次の一手を撃ちもらさぬ事。
狩人達は、ゼンが持ってきた――トーヤからバルサの手に渡るはずだった荷物から、バルサ達の行き先を推測し始める。
頼まれた荷物を背負ったトーヤは草むらの中を進み、バルサ達の住居である水車小屋へと辿り着いたが、バルサ達は不在だった。
荷を置いて帰るわけにも行かないと、トーヤは悩む。
そこから距離を置いてトーヤを見張っていたゼンとユンも、バルサ達が不在と知り、彼等は近隣で、あの小屋の住人の風体を聞いてみる事にする。
宮へ帰るために扇の下を歩いていたシュガ。
すると彼は、自分の前方にヘキムームを買っているチャグムを映す。一旦陰に隠れるシュガだったが、チャグムが近づいてきたところで姿を現し、その名前を呼ぶ。
皇子、なんと言うお姿を……。手を伸ばすと、僅かに後退するチャグム。人目を気にしたシュガは、チャグムを人気のないところへ導く。そして跪けば、ご無事で……と言葉を発し、そして、今すぐ宮へお連れしますと続ける。
しかしその事に難色を示すチャグム。シュガは水妖が良き精霊である事を帝に伝えたために、もう皇子に危害を加えるのはもはや誰も――。





























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