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第1話 覇王は不良を退ける(後編)−?
6.覇王、光臨。
ほぼ同時刻。刃根崎は一人の男と中庭で対峙していた。
耳に光るピアス。下品な笑みを口元に浮かべた、小菅兵太と言う男と一対一の格好で。
木刀を肩に担ぎながら、刃根崎は瞳を細め、小菅に負けるとも劣らない下品な笑みを浮かべていた。
「どうも、小菅先輩。糞素敵なラブレター、有難うございました」
嫌味たっぷりにそう言うと、小菅はこめかみに青筋を浮かべた。
「喜んでもらえたようで有り難い。今日は今までのお礼をさせてくれよ」
張り詰める空気。その時刃根崎は、自分に集中している視線がある事に気づいた。
笑みが深くなる。あの果たし状を貰った時に感じた予感は、確信に変わる。
草が、靴の裏で擦れる。一定の距離を保つと、刃根崎は肩に担ぎ上げていた木刀の布をすばやく外して、草の上に落とす。ひゅ、と木刀は次の瞬間に空を切り、そして小菅の鼻の先で止まった。
「ええ。喜んで受け取りますよ。十一人も御礼をしてくれるなんて、俺ってモテて困るねい」
「何…」
打たれると感じ身をすくめた小菅は、続けて放たれた言葉に驚愕した。
ばれている――しかも人数まで完全に合っている。
「気配もまともに隠せないような奴ばかりなんですねい。俺たちを取り囲むようにぐるっとって感じですか。俺に対してそんな事するなんていい度胸だ」
小菅は自分の額に冷や汗が伝うのを感じた。
塩見を助けた時に見せていた瞳とは、今は全然違う色をしている。
「さあ、始める事にしましょうや。後悔、すんじゃねぇよ」
今この場所に居るのはまさしく――覇王だった。
「ぐ…」
瞳に射抜かれ小菅は怯むが、しかし退く事はしなかった。
刃根崎でも、この人数を一気に相手にするのは難しいはずだと思ったからだ。
「い、幾らお前でも一人ではきついだろう…おい、やっちまえ!」
どもりながらも何とか声を荒げ、合図を出す。
十一人の生徒が一気に姿を現した。彼らは誰もが手に武器となるようなものを所持しており、小菅もまた、懐からバタフライナイフを取り出す。
卑怯だ、と言おうとしたが、常に木刀を所持している自分も相当に卑怯なわけであるから、言えるわけは無かった。
ざ、と周囲に視線をやる。小菅がナイフを振りかざしても、誰かがバットを振り上げても、しかし刃根崎は動じる事はなかった。
それどころかその場から動く事すらしない。足を踏ん張り、ゆっくりと瞳を閉じるだけだ。
「やられるのはてめぇらだよ。逝け」
彼らが襲い掛かる直前、ようやく木刀がゆっくりと振り抜かれる。
「――愚者、一掃」
刃根崎を中心にして、とてつもない爆風が吹き荒れ、そして。
吹き飛ばされかけながら、彼らは見るのだ。
白き、龍を。
7.覇王の前に影
決着が付くのに、一分とかからなかった。
すっかり伸びてしまった小菅たちを前にして、刃根崎は疲れたという風にぐぐ、と伸びをした。
「ちょっと、疲れたな。やりすぎたか…?」
下に落としていた布を拾い上げ、木刀に綺麗に巻きなおす。紐を口できゅ、と結ぶと、それを肩に担ぎ上げた。 久しぶりに、あの技を使った。一人一人対応をしてやっても良かったのかもしれないが、それをしていたら確実に今よりも酷く体力を消耗していたように思う。
腹の虫が鳴った。昼休み直後にすぐ教室を出たので、まだ昼食は取っていなかった。
「ああ、まあどうでもいいか。腹減った。戻ろ…」
踵を返し、自分の教室へ向かうべく歩を進める。一歩踏み出し、しかしそこで刃根崎の歩みは止まる事になる。 目の前に暗い影が落ちた。頭に疑問符を浮かべ、刃根崎は自分の目の前に突如出現したその人物を見るべく、視線を上げた。
黒髪の長髪を風になびかせながら、その男は刃根崎をじっと見据える。
何も言わずに見つめてくるその視線が気持ち悪くて、刃根崎は嫌悪感を露にした。
「――何だ、あんた」
「見事な、剣さばきだね。刃根崎恭介」
しかし男はその問いに答えず、ぱちぱちと手を打ち鳴らして笑う。それがまた、刃根崎の癪に障った。
見覚えはあった。目の前にいる男は自分と同じくらい、この高校では有名な存在であるからだ。
名前を思い出そうとしたが、全く思い出す事は出来なかった。まあいいか、と刃根崎は思い出すことを諦める。男は、更に刃根崎との距離を詰めてきた。
「しかし、ちょっとやりすぎかもね」
射抜かれた。その瞳を見た瞬間、刃根崎の背筋に悪寒が走った。木刀を構えるが、その紐を解く事も出来ない。 何だ、こいつは。刃根崎は歯軋りをする。
以前見かけた時は、こんな空気を纏ってなどいなかったはずだ。
どくん、と心臓が跳ね上がる。こいつは危険だと、本能が告げる。
動けないでいる刃根崎を前に、男はゆっくりと刃根崎の肩に手をかけ、そしてもう片方の手をゆっくりと移動させた。
「…っ、あ」
ぐら、と刃根崎の体が傾きかけた。倒れそうになった体は寸前で何とか木刀で支え、芝生の上に倒れる事は免れた。
何とか距離を取り、腹を押さえる。しびれが、残っていた。
「て、めぇ」
ナイフだとかそんなもので刺されたとか、拳を打ち込まれたとかそんな事はされていなかった。
只、手を触れられただけ。それなのに、刃根崎の体には酷い衝撃が走った。
荒く、息を吐き、睨み付けた。男は肩をすくめる。
「そんな瞳で見るなよ。ちょっとしたお仕置きだよ、これは。まあ、私と君は…いずれ、戦う事になるだろうから楽しみにしててくれよ。すぐに、復讐の機会は訪れる。君の、私に対する、ね」
それ以上何か仕掛けてくるかと思ったが、男はもう何かをしてくる事もなく、踵を返すだけだった。
その背中を見つめている刃根崎に、降ってくる言葉があった。
「刃根崎恭介。君が体の中に飼っているものを、また見れる事を期待している」
男は消えた。
覇王、刃根崎恭介は、この時酷い敗北感を覚えた。
実力未知数の覇王の前に、現れたこれもまた、実力未知数の男。
彼の姿が消えた後で、刃根崎はその場に座り込み、毒づく。
「ふ、ざけんな。糞生徒会長がよ…!」
刃根崎はその場から動く事が出来ず、しばらく怒りと悔しさに打ち震えていた。
――風の音が、酷く耳障りだった。
★第1話、完。以下、第2話−?に続く。
と、いうわけで第1話は終了です。なんていうか、…な出来で申し訳ない。
漢数字とかごちゃ混ぜですが、見ない振りで…
おまけで次回予告を書いてみました。これもまた、反転でご覧下さい。
★第2話予告(あくまでも現段階のイメージなので、全然違うじゃねぇか!と言われても困ります)
男の前に、刃根崎はがくり、とひざを付いた。
目の前の男は口元に笑みを浮かべて笑っていた。
これが力の差、なのだろうか。
しかし負けるわけにはいかなかった。
刃根崎は立ち上がり、改めて木刀を握り締める。
あの白き龍をもう一度、お前に見せてやろう。
次回、第2話「覇王は暴君に溺れる」近日公開。
一気読みじゃwww
てか、すげーリカバリーに拍手w
とりあえず、複線が色々出てきたので
期待www
一気読みしてくれると、大変に有り難いです。
3月アップは困難とか言ってたくせにね、ちょっとがんばって見ました。
この複線は後々ちゃんと拾っていきます。
さて、どうなる事やら…
ちょっと一之宮の扱いに困ってたり。
送っていただきましたTBは、ミラーも活用しなるべく返させてもらっていますが、それでもTBが送れない場合があります。 日数経過状況により気がつかない場合があります。ご了承ください。
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